書きあぐねている人のための小説入門 保坂和志

書きあぐねている人のための小説入門

書きあぐねている人のための小説入門

哲学書が難しいと言われる根本の理由は、哲学が”私””人間””世界”を俯瞰することを拒否したところで思索しているからなのではないかと私は思う。
哲学者はそれらが俯瞰できない対象だからこそ思索する。それゆえ、思索に費やしたプロセスの全体しか”答え”にならない。一冊の本を読み終わった時点で、その展開をモデル化して図示することは不可能ではないかもしれないが、モデル化はすでに俯瞰なのだから、俯瞰できない対象を俯瞰せずに思索したプロセスの全体をわかるはずがない(ここは大事なので、もう一度読み返してください)。
<中略>
外から見る・俯瞰する能力の自然な延長がモデル化であり、モデル化の能力がいくら高くてもそこに質的な差異は一切ない。人間が人間として心のそこから知りたいと思うことは、すべて外から見ることができない、つまりその外に自分が立って論じることができない。それを知ることが哲学の出発点であり、これは小説もまた完全に同じなのだ。
?章 小説の外側から

プロセスの全体、というのがとてもしっくりくる。