息子の部屋

息子の部屋 [DVD]

息子の部屋 [DVD]

精神分析医のジョバンニは、妻と二人の子供と幸せな暮らしを送っていた。
しかし、息子のアンドレアが海の事故で突然亡くなってしまう。
息子の死は、残された家族の間に徐々に溝を生んでいく。
ある日、息子のガールフレンドだったと言う少女から、手紙が届く。
彼女とともに長いドライブを終えた後、家族に変化の兆しが見え始めた。

2001年カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞。


息子が失われたというのに、なぜ世界は凡庸なままありつづけるのか。
もしあのとき、自分がひとこと声をかけていれば、今も息子は生きていたのではないか。
怒りとも自責ともつかない感情に翻弄される父親の姿が、リアルに描かれている。


家族の一人を失って家族の団結が強まるなんてきれいごとだ。と監督であり父親役を演じたナンニ・モレッティはインタビューで答えている。
死は死でしかなく、どんなに求めようともそこに救済はない。
宗教も、家族でさえ、もはや救いとはなり得ない。
その悲しみを癒す術を知っているものは、誰もいないのだ。


この映画を撮る時、まず誠実であろうとした。と母親を演じたラウラ・モランテは繰り返し言う。
一家の食卓の風景、穏やかな街の風景、診療所を訪れる患者たち。
容赦なく流れる時間と、変わり続ける世界を描写し続けることは、その誠実さの現れだろうか。


息子のガールフレンドの登場は、死という出来事の大きさにとらわれていた家族の目を、息子が生きていた事実、自分達はこれからも生きていくという事実に向けさせるきっかけとなる。
しかし、それすらも劇的ではない。
それは小さなきっかけにすぎない。
ああ、こんなふうに時間はすぎてきて、これからもすぎてゆくのだな、という微かなしるし。


愛するものの死という究極の事態が起こってもなお途切れることなく続く時間の一片を、世界の穏やかさと冷酷さを、この映画はそっと切り取ってみせている。