徒然草

新訂 徒然草 (岩波文庫)

新訂 徒然草 (岩波文庫)

高校を卒業して以来、古典など読んでいない。古文の授業は嫌いではなかったが、あの頃は文法と単語の意味を追うのに必死で(け、け、く、くる、くれ、けよ…)、内容を愉しんで読むということはあまりなかったような気がする。今、電車の中や寝床でする読み方はその逆で、文法なんかは注釈に助けてもらうことにして、わからないところは適当に飛ばして、これは面白いな、味わい深いなあ、と思うところをくり返し、じっくり読む。そうしてみると兼好という人の鋭利な視線、書き口の確かさに、ははあ、これは確かにすごいな、さすが古典だけある、といまさら感心したりして、これはなかなか愉しい読書体験である。

第三十一段


 雪のおもしろう降りたりし朝、人のがり言ふべきことありて、文をやるとて、雪のこと何とも言はざりし返事に、「この雪いかゞ見ると一筆のたまはせぬほどの、ひがひがしからん人の仰せらるゝ事、聞き入るべきかは。返す返す口をしき御心なり」と言ひたりしこそ、をかしかりしか。
 今は亡き人なれば、かばかりのことも忘れがたし。