ポロポロ 田中小実昌

ポロポロ (河出文庫)

ポロポロ (河出文庫)

『書きあぐねている人のための小説入門』で保坂和志さんが触れていた書物。
表題作の『ポロポロ』以外は中国戦線で歩兵として過ごした日々が描かれている。保坂さんが前出の著書で「下痢の話ばっかり」と書いていたと思うが、本当に下痢の話ばかりくり返し出てくる。それにつられて、解説の田中克彦さんも自分のウンコの話をしてしまっているというすごい本だ。
筑紫哲也さんが岩波文庫の小冊子『読書のすすめ 第10集』で、田中小実昌は実は自分の親戚筋にあたる人で、新宿ゴールデン街の主のような人だったと書いていた。そのようなことを聞くと「なにかうさん臭い人物ではないか」と私などは思ってしまうのだが、小説のほうは誠実な、誠実と言うと大袈裟になってしまうような気がするがとにかく丹念で、書く人が自分の記憶ではなく、記憶を辿る自分に忠実でなくてはこうは書けまい、という感じなのだった。この感じを批評っぽい言葉で言うと「物語化の拒否」ということになるそうだ。なるほど。